Top Image

ガチ登山温泉vol.3 @阿曽原温泉と下の廊下

※ ページの読み込みが完全に終わるまでお待ちください。画像をクリックすると拡大します。

第7章 阿曽原温泉⇒志合谷

2日目の朝。山小屋に泊まる人が次々に起きて、あわただしく準備を始める。外は夜明けが近いかどうか分からないくらい真っ暗である。ライトを点けないと何も見えない。しかしこの時間に出発しないと欅平からトロッコに乗れないという。観光客でごった返す10時以降に欅平に着くと、トロッコは予約でいっぱいらしいのだ。せっかく下山できてもトロッコに乗れず家に帰れないのでは困る。10時までになんとしてでも欅平に着かなくてはならない。

この小屋で宿泊すると晩飯と朝食が着いてくるのだが、4時にのんびりと食堂で朝食を食べるわけにもいかないので、朝食代わりにお弁当をいただく。このお弁当をどこで食べようか。お弁当を積み込み、リュックの中を整理して、我々は大勢の登山客と共に小屋を後にした。外は本当に暗い。何も見えない。暗闇で1m先も見えないのに断崖絶壁を歩くのかと考えると非常に恐ろしい。

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

4時過ぎに大勢の登山客がいっせいに登山を開始したので、登山道は長蛇の列。ヘッドライトの明かりが闇に光り、それが登山道に沿ってぽつぽつと続いている。真っ暗な中にヘッドライトが線状にまたたく光景はとても美しい。しかし残念ながら、軽装備登山を標榜する我々は、ライトすら持ってきていなかった。まわりは皆頭にヘッドライトを巻きつけて前を強力な光で照らしながら闇を切り裂いて進んでいく。しかし、我々は携帯のバックライトと他の方のヘッドライトの光を頼りにするしかなかった。。。本当に何も見えない。何も見えやしない!

さすがに携帯電話のライトで断崖絶壁を歩くのは危険すぎるので我々だけ世が明けるまで待とうかとも考えたが、100人以上いる大集団と一緒に進むほうが安全であるし、夜明けを待ってからの出発ではトロッコには間に合わない。結果、大集団の中に紛れて一緒に進むことを決断したのだが、さすがに携帯電話のライトではまわりは何も見えないし、見えない石に時々躓いたりする。

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

石に躓いて時々転びながらも携帯のライトのみで必死に大集団に喰らいついて歩いていくと、徐々に空が明るくなってきた。道は山小屋から一旦水平歩道までのぼり切り、そこから水平歩道を延々と欅平まで進むのだが、水平歩道に出るあたりにはライトがいらないくらい明るくなっていた。これでもう安心である。さすがに落差数百メートルの水平歩道を闇の中携帯ライトのみで歩くことはできない。水平歩道までに夜があけて本当によかった。

水平歩道にあがると、あとは標高線上をひたすら水平に歩き続ける。昨日までの道と違ってかなり標高の高いところを歩いているので、川ははるか下を流れているし、道も山の中腹くらいをなめているといった感じである。昨日から高いところに対する恐怖心が麻痺しているので道の200m下に川が流れていたり、断崖絶壁だったりしても何も驚かない。昨日よりは道幅も広いし、白竜峡のような極端な断崖絶壁も無いので、断然昨日よりは楽チンである。

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

しかし、標高が高い。川がもう本当に小さく下のほうに見える。欅平で350m降下するということは、川よりも350m上の地点を歩き続けるということを意味する。柵の無い東京タワー(より高い道)を延々と歩き続けるわけか。もう訳が分からなくなってくる。なぜ我々は今こんなところを歩いているのだろうか。

写真をご覧になっていただければ分かるが、崖を申し訳程度にくりぬいた道なので、道の下にはなだらかな斜面はなく、垂直に崖が続いているので、道からひょいと下をのぞきこむとどこまでも垂直に崖が見えて、その一番下にちょろっと川が見えるのである。300m下がのぞきこめる恐怖!この道を作った人は本当にすごいと思う。何もない崖をくりぬいて、道を切り開いていったのだから・・・。

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

上の写真にもあるように途中でいくつかの谷を越える。かなりえぐれた谷なので大回りをして迂回をしないと超えられない。たぶん、水平歩道が川から300mも上にあるのは、こういった谷をうまく渡るためなのではないだろうか。途中、阿曽原谷、オリオ谷、志合谷の3つの谷を渡る。

中でも志合谷は、かなり急な谷になっている関係で谷の下にトンネルが掘られており、ここを通ることになるのだが、雨で水没して通れない時もあるくらい状態のあまり良くないトンネルなので、超えるのに非常に苦労した。トンネル全体が水溜りになっているので、靴をずぶぬれにしながら歩かないといけないし、中は真っ暗なのでライトは必須である。前述のように、ライトを持ってきていない我々は、足をずぶぬれにしながら、そして携帯で先を照らしながらこのトンネルを進んだ。夜明け前に出発しない場合でも、このトンネルはライト必須であるし常に水溜りがあるようなので、ライトとあと足回りの防水対策は絶対に必要である。ここを訪れる方は参考にしていただきたい。

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

阿曽原温泉と下の廊下 阿曽原温泉⇒志合谷

志合谷までくれば、この日の行程も半分終了である。この時点で7時半。10時には間に合いそうだ。残りも気をぬかずに進んでいこう。欅平はもうすぐだ。

阿曽原温泉⇒志合谷の地図

第8章 志合谷⇒欅平

ちなみにこの志合谷は、世界でも珍しい「泡雪崩(ほうなだれ)」が起きる場所として有名である。通常の雪崩と違い雪煙が時速200kmの速さで降下し、その圧力によって周囲のものがことごとく破壊されるのだという。この志合谷には、その昔黒部第三発電所の建設のための従業員宿舎があったのだが、この泡雪崩のせいで宿舎が谷の対岸まで600mも吹き飛ばされ84名の方がお亡くなりになっている。詳しくは、吉村昭氏の「高熱隧道」をご覧いただきたい。

この道もそして黒部のダムも発電所も、多くの方の努力とそして犠牲によって生み出されたものなのだ。今我々が安定した電気の供給を享受できているのも、先人たちの努力のおかげなのであろう。今回のルートはまさに黒部の電源開発を体感できるルートであるので、今まで知らなかった黒部開発の歴史やその背景をいろいろと知ることができた。

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

志合谷からさらにしばらく水平歩道を歩き続けると、この下の廊下もいよいよ終わりに近づく。今までのただ水平に等高線上を進む道は終わり、いよいよ道は下りに入ってくる。今まで川との高低差が300m近くあり、川ははるか下を流れていたのが、下り坂を転げるように降りるたびにどんどんと川が大きく見えてくる。この下り坂を降りれば観光客でごったかえす欅平である。あともう少しだ!我々の胸は躍った。長かった旅ももう少しで終わりなのだ。

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

そして、遠くから黒部峡谷鉄道の駅のアナウンスが聞こえ始める。降りるたびに車や橋、そして歩き回る人が見えてきて、どんどん大きくなってくる。もうすぐだ。とうとう欅平に到着するのだ。

最後の下り坂は本当に急で、まさに転がり落ちるようにくだっていく。変な虫がいっぱいいるのでそれから逃れたくて余計に我々の歩みは速くなる。欅平スタートだとこの坂をずっと上り続けなければならないわけなので、やはり黒部ダムスタートのほうが楽そうだ。送電線のルートと平行しながら道はどんどん高度を下げていく。

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

そして・・・。

9時35分。30kmという死と隣り合わせの長すぎる登山を終えて、我々は欅平に到着した。くたくたになって登山口のベンチに座り込んでいる横を軽装の観光客が楽しそうに通り過ぎていく。やっと2日間の山篭りを終えて下界に戻ってきた!この喧騒な雰囲気がどこか懐かしい。

この下の廊下は、通常の登山とは違うスリルと緊張感のある登山であった。今まで「ガチ登山温泉シリーズ」を行ってきて、野生の熊に遭遇したりさまざまな経験を積んできていたが、恐怖で埋め尽くされるような登山は初めてであった。このルートは決して難しいルートでは無い。登山経験がなくてもこのルートを踏破するのは可能であろう。ただ一点注意しておかなければならないのは、本当に危険と隣り合わせのルートで毎年死者が出ているということである。きちんと慎重に進めば問題無い道ではあるが、一瞬の判断ミスや気の緩みが最悪の結果につながる可能性が常にあるルートである。

もしこの旅行記をどういう経緯かでお読みになって、そしてチャレンジしてみたいと思った方は是非トライしていただきたい。景色は本当にきれいだったし、温泉もすばらしかった。このようないろいろな体験をできる登山ルートはそうそうないだろう。ただ、行かれる方は、「一人でいかないこと」「毎年出る死者に自分がなる可能性があるという認識をもつこと」「ルート上の状態をよく調べ、無理な行動はしないこと」を守っていただきたいと、軽装備で挑んだ説得力の無い私から1つお願いしたい。

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

阿曽原温泉と下の廊下 志合谷⇒欅平

志合谷⇒欅平の地図

<< 十字峡〜阿曽原温泉へ 下の廊下マップへ >>

▲ページのTOPへ

Copyrights (c) 2003- マルタケエビス All Rights Reserved. 一切の無断転載を禁ずる.